標準 永訣の朝 【一】 [50点]
けふのうちに
①とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
(②あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
(あめゆじゆとてちてけんじや)
青い蓴菜のもやうのついた
これら③ふたつのかけた陶椀に
おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしは④まがつたてつぱうだまのやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした
(あめゆじゆとてちてけんじや)
蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる
⑤ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ
ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから
(あめゆじゆとてちてけんじや)
はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ
銀河や太陽 気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪の⑥さいごのひとわんを……
標準 源氏物語(光る君誕生) 【一】 [50点]
いづれの御時にか、女御・更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなききはにはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。初めより①我はと思ひあがり給へる御方々、めざましきものに、おとしめ、そねみ給ふ。同じほど、それより(ア)下﨟の更衣たちは、ましてやすからず。朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、②いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえはばからせ給はず、世のためしにもなりぬべき御もてなしなり。(イ)上達部・上人なども、あいなく目をそばめつつ、③いとまばゆき人の御おぼえなり。(ウ)唐土にも、④かかることの起こりにこそ、世も乱れあしかりけれと、やうやう天の下にも、あぢきなう、人のもて悩みぐさになりて、楊貴妃のためしも引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにて、まじらひ給ふ。
父の大納言は亡くなりて、母北の方なむ、いにしへの人の、よしあるにて、親うち具し、さしあたりて世の⑤おぼえはなやかなる御方々にもいたう劣らず、何事の儀式をももてなし給ひけれど、とりたててはかばかしき後見しなければ、ことあるときは、なほよりどころなく、心細げなり。
古典文法 品詞分解 [39点]
次の文章の空欄に、それぞれの単語の品詞、活用の種類、活用形などを答えなさい。(各1点)
標準 源氏物語(光る君誕生) 【二】 [50点]
前の世にも、御契りや深かりけむ、世になく清らなる①玉の男皇子さへ生まれ給ひぬ。いつしかと心もとながら(a)せ給ひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、めづらかなるちごの御かたちなり。一の皇子は、右大臣の女御の御腹にて、よせ重く、疑ひなきまうけの君と、世にもてかしづき聞こゆれど、この御にほひには並び給ふべくもあらざりければ、おほかたの②やむごとなき御思ひにて、この君をば、私物に思ほしかしづき給ふこと限りなし。
初めよりおしなべての上宮仕へし給ふべききはにはあらざりき。おぼえいとやむごとなく、③上衆めかしけれど、わりなくまつはさ(b)せ給ふあまりに、さるべき御遊びの折々、何事にもゆゑあることのふしぶしには、まづまう上ら(c)せ給ふ、あるときには(ア)大殿籠り過ぐして、(イ)やがて候は(d)せ給ひなど、(ウ)あながちに御前去らずもてなさ(e)せ給ひしほどに、おのづから軽き方にも見えしを、この皇子生まれ給ひてのちは、いと心ことに思ほしおきてたれば、坊にも、ようせずは、この皇子のゐ給ふべきなめりと、④一の皇子の女御はおぼし疑へり。人より先に参り給ひて、やむごとなき御思ひなべてならず、皇女たちなども(エ)おはしませば、この御方の御いさめをのみぞ、なほわづらはしう、心苦しう思ひ聞こえさ(f)せ給ひける。
かしこき御かげをば頼み聞こえながら、おとしめ、疵を求め給ふ人は多く、わが身はか弱くものはかなきありさまにて、⑤なかなかなるもの思ひをぞし給ふ。御局は桐壺なり。
標準 働かないアリに意義がある 【一】 [50点]
一年でコロニーが終わってしまうアシナガバチやスズメバチのような一部のハチは別にして、ミツバチやアリのように何年にもわたってコロニーが続く種類では、女王がワーカーに比べてとても長生きであることが知られています。確認されている例では、オオアリの一種で女王が二十年以上生き続けたという記録があります。これは昆虫では最も長寿な例であり、働きアリの寿命は長くても三年くらいですので、女王がいかに長生きかがわかります。残念ながらワーカー個々の寿命の違いと労働の量を関連づけて調べた研究がなく、データはありません。しかし経験的な例から、①働いてばかりいるワーカーは早く死んでしまうらしいことは推察されています。
少し前までは野菜のハウス(ア)サイバイで、花を受粉させて結実させるのにミツバチが使われていました。ところが、そうやって②ハウスに放たれたミツバチはなぜかすぐに数が減り、コロニーが壊滅してしまうのです。ハウスではいつも狭い範囲にたくさんの花があるため、ミツバチたちは広い野外であちこちに散らばる花から散発的に蜜を集めるときよりも多くの時間働かなければならず、厳しい労働環境に置かれているようです。この過剰労働がワーカーの寿命を縮めるらしく、幼虫の成長によるワーカーの補充が間に合わなくなって、コロニーが壊滅するようです。実験的に検証された結果ではありませんが、ハチやアリにも「過労死」と呼べる現象があり、これはその一例なのではないかと思われます。③自然の条件下では、すべての個体が過労にならないとしても、④労働頻度と寿命の間には関係があるかもしれません。
植物と違って、目に見えるような速さで動く動物はそもそも、(イ)ドウサの際に筋繊維を伸び縮みさせて動いています。筋繊維が(ウ)シュウシュクするときに出る乳酸という物質が分解されるには時間がかかるため、すべての動物は動き続けると乳酸が(エ)タまり、だんだん疲れていきます。つまり動物は動くと必ず疲れるし、疲れを回復させるには一定期間、休息をとらなければならないのです。これは動物が筋肉で動いている限り逃れることのできない宿命です。昆虫も筋肉で動いていますから、当然⑤この宿命からは逃れられません。昆虫も疲れるはずです。実際、ハチを無理やり羽ばたかせて、羽ばたきの時間と筋肉中の乳酸量の関係を見ると、たくさん羽ばたかせるほど乳酸量が増えていくことがわかっています。疲れれば正確に動くことができなくなりますから、仕事の(オ)ショリ能力もだんだん落ちていくでしょう。
標準 働かないアリに意義がある 【二】 [50点]
私たちは個体の疲労とコロニー維持の関係に注目した実験をしました。すると反応閾値の差が、コロニーの(ア)ハンエイを支えていることがわかったのです。(中略)その結果、予想どおり、 A のほうが単位時間あたりに処理できる仕事量は常に大きいことが示されました。より多くの個体が働くのですから当然ですね。つまり、やはりみんながいっせいに働くほうが常に労働効率はいいのです。
しかし、しかしです。仕事が一定期間以上処理されない場合はコロニーが死滅する、という条件を加えて実験をすると、なんと、 B のほうが、コロニーは平均して長い時間存続することがわかったのです。卵の世話などは短い時間でも行わないでいるとコロニー全体に大きなダメージを与える仕事ですから、①この仮定はそれほど無理のあるものではありません。
なぜそうなるのか。働いていたものが疲労して働けなくなると、仕事が処理されずに残るため労働刺激が大きくなり、今まで「働けなかった」個体がいる、つまり C がある場合は、それらが働き出します。それらが疲れてくると、今度は(イ)キュウソクしていた個体が回復して働き出します。こうして、いつも誰かが働き続け、②コロニーの中の労働力がゼロになることがありません。一方、みながいっせいに働くシステムは、同じくらい働いて同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間がどうしても生じてしまいます。卵の世話などのように、短い時間であっても中断するとコロニーに(ウ)チメイテキなダメージを与える仕事が存在する以上、誰も働けなくなる時間が生じると、コロニーは長期間は存続できなくなってしまうのです。
つまり誰もが必ず疲れる以上、働かないものを常に含む非効率的なシステムでこそ、長期的な存続が可能になり、長い時間を通してみたらそういうシステムが選ばれていた、ということになります。働かない働きアリは、怠けてコロニーの効率を下げる存在ではなく、それがいないとコロニーが存続できない、きわめて重要な存在だと言えるのです。
重要なのは、ここで言う働かないアリとは、社会の利益にただ乗りし、自分の利益だけを(エ)ツイキュウする③裏切り者ではなく、「働きたいのに働けない」存在であるということです。本当は有能なのに先を越されてしまうため活躍できない、そんな(オ)ブキヨウな人間が世界消滅の危機を救う――とはなんだかありがちなアニメのストーリーのようですが、シミュレーションはそういう結果を示しており、私たちはこれが④「働かない働きアリ」が存在する理由だと考えています。
働かないものにも、存在意義はちゃんとあるのです。
標準 働かないアリに意義がある 【三】 [50点]
ムシの社会が①指令系統なしにうまくいくためには、メンバーの間にさまざまな個性がなければなりません。個性があるので、必要なときに必要な数を必要な仕事に(ア)ハイチすることが可能になっているのです。このときの「個性が必要」とは、 A 能力の高さを求めているわけではないのが②おもしろいところです。仕事をすぐにやるやつ、なかなかやらないやつ、性能のいいやつ、悪いやつ。優れたものだけではなく、劣ったものも混じっていることが大事なのです。
③性能のいい、仕事をよくやる規格品の個体だけで成り立つコロニーは、 B 決まり切った仕事だけをこなしていくときには高い効率を示すでしょう。 C 、ムシの社会もいつ何が起こるかわかりません。高度な判断能力を持たず、刺激に対して単純な反応をすることしかできないムシたちが、(イ)コッコクと変わる状況に対応して組織を動かすためには、さまざまな状況に対応可能な一種の「余力」が必要になります。その余力として存在するのが働かない働きアリだと言えるでしょう。
D 何度でも(ウ)キョウチョウしたいのは、④彼らは「働きたくないから働かない」わけではない、ということです。みんな働く(エ)イヨクは持っており、状況が整えば(オ)リッパに働くことができます。それでもなお、全員がいっせいに働いてしまうことのないシステムを用意する。言い換えれば、規格外のメンバーをたくさん抱え込む効率の低いシステムをあえて採用していることになります。しかしそれこそが、ムシたちの用意した進化の答えです。
標準 働かないアリに意義がある 【四】 [50点]
(ア)ヒルガエってヒトの社会ではどうでしょうか。企業は能力の高い人間を求め、効率のよさを追求しています。勝ち組や負け組という言葉が定着し、みな勝ち組になろうと必死です。しかし、世の中にいる人間の平均的能力というものはいつの時代もあまり変わらないのではないでしょうか。それでも組織のために最大限の能力を出せと、a尻をたたかれ続けているわけです。昨今の経済におけるグローバリズムの進行がその傾向にb拍車をかけています。
①余裕を失った組織がどのような結末に至るのかは自明のことと思われます。大学という組織においても、近年は「役に立つ研究を。」という掛け声が高くなっています。しかし、特定の目的に役立つ研究は本来、公立の研究機関(農業試験場など)がそのために設置されているのであり、大学の社会的役割の一つには、基礎的研究を実行し、技術に応用可能な新しい知識を見つけるというシードバンク(苗床)としての機能があったはずです。
たとえば狂牛病(=BSE)の病原体は、もともと神経(イ)サイボウに存在する②プリオンというタンパク質が(ウ)ヘンイしたものだと考えられていますが、プリオン自体はそれまで何の役に立つかわからないものだったので、ごく少数の基礎研究者がその研究を行っていたにすぎませんでした。ところが、ひとたび狂牛病が現れ、プリオンに関する応用研究が必要になったとき、その基礎研究者たちが見つけておいた知識が大いに役に立ちました。言い換えれば、何が「役に立つのか」は事態が生じてみるまでわからないことなのです。したがって、今は何の役に立つかわからないさまざまなことを調べておくことは、人間社会全体のcリスクヘッジの(エ)カンテンから見て意味のあることです。そういう③「有用作物の候補の苗床」としての機能は大学以外に(オ)ニナう機関がなく、大学という組織の重要な社会的役割の一つであると、私は考えています。